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小説『天才少女は重力場で踊る』感想 ~未来との通信装置を軸にしたSF恋愛物語~

天才少女は重力場で踊る(新潮文庫nex)

『天才少女は重力場で踊る』緒乃ワサビ

 

若干17歳で教授でズボラな天才少女であるヒロインと、
まだ何者でもない大学生の主人公との恋。

その恋は未来との通信装置をキーして、現実と未来を交錯しながら描かれる。
そしてとある理由から恋の成就が世界の命運を握ってしまう。

未来との通信装置を物語を軸にしたSF恋愛物語。

 

【 ↓ 公式サイト様 ↓ 】

www.shinchosha.co.jp

 

以降、ネタバレ注意!!!

 

 

【章別概要】

まず物語を振り返るために、章別に物語の概要をまとめました。

『第一章:不機嫌な天才少女』

未来からテキストを受信できるリングレーザー通信機が起動する。

そしてその装置に映し出されたのは、未来の三澄からのメッセージ。
それは”今の三澄と万里部が恋をしないと世界が滅びる”というもの。

 

『第二章:世界を守るアラーム』

万里部は一石教授から寝起きの悪い三澄を起こし、研究室に連れていく任務を与えられる。
彼は彼女の汚い部屋に気落ちしながらも、何とか職務を成し遂げる。

そしてリングレーザー通信機は、三澄の改良によりテキストだけでなく画像も送れるようになる。

それを機に一石教授は万里部へ量子矛盾についての実例を述べる。
確定された未来(未来から送られてきた画像)と異なる状況に置かれた物質は、量子情報を発散させるために蒸発したり砕けたりする。

研究室の中で唯一未来を知っている万里部は、その量子矛盾が自分の身や世界に発生してしまう恐ろしさを体感する。
そして再度、未来の三澄から通信があり、万里部へコンタクトしようとしている人間は自分を含め二人(異なる世界の三澄?)いる事が明かされる。

量子矛盾によってもたらされる物質的な破壊の恐怖と、混沌とした部屋に住むズボラな三澄に恋をするという難題が万里部を悩ませる。

 

『第三章:混沌という名の部屋』

万里部の家庭事情が明らかになる。
築50年を超えたボロな賃貸で母親との二人暮らしをしており、そして万里部は自分の父親にコンプレックスを抱いている。

万里部は三澄の部屋の片付けや朝食(みりんを使った筑前煮)を振る舞う事を通して、徐々に仲を深めていく。
そして三澄から万里部へHCL計画、もといハッピー・キャンパス・ライフ計画への協力を求められる。

 

『第四章:HCLプロジェクト』

ハッピー・キャンパス・ライフ計画もとい、万里部と三澄のデート回。
三澄が一般的な大学生の生活を体験するために、万里部の一日に同行する。

一日中共に過ごす中、三澄は万里部のバイト先の友情との交流や普通な家族について知っていく。
そして万里部自身も恋をさせるという計画無しにしても、三澄と過ごす時間が好きだと自覚し始める。

 

『第五章:一石教授の考察』

二階堂は三澄の事が好きだから、万里部にその役割を変わって欲しいと打診する。
万里部から見た二階堂は圧倒的に立場が上で、社会人として立派で、三澄と共に過ごした時間が長いからその変更を受け入れる。

そして万里部は三澄から少し関係性が離れた事で、改めて三澄と共にいる事が心地良いのだと改めて実感する。

そんな気持ちと共に、三澄を恋させる事が出来なくなって世界が終わってしまうのでは、という不安から一石教授に今までの経緯を相談する。
そして相談を受けた一石教授は三澄のプログラムを易々と起動し、未来との画像通信機能を用いて七年後の三澄と対面する。

未来の三澄と一石教授の議論から、万里部と三澄の恋路を邪魔している誰かは二階堂を操っているのではという推論が得られた。
その推論を元に万里部は研究室で二階堂を待ち伏せする事となる。

 

『第六章:守られた世界』

二階堂と通信をしていたのは、万里部と三澄の娘である光。
光は両親である万里部と三澄が飛行機事故にあったことを知って、二人を死から救うために過去に介入した。

その事実を知った二階堂と万里部は、二人の飛行機事故という事象を光に観測させつつ、二人を救う事を誓う。
そしてそれを実行するために万里部は二階堂の会社に入社し、事故のカモフラージュに奔走する事を決める。

それともう一つの問題、万里部と三澄の恋。
万里部の告白の言葉は素直な彼らしい、三澄と描く未来を言葉にしたもの。

「毎朝、三澄を起こすのは俺でありたいんだ。隣を歩いて、第一研究室に向かう三澄を見送りたい」
「いつまで? 一生?」
三澄は意地の悪そうな笑みを口元に浮かべる。
「あぁ、一生だ」

そんな真っ直ぐな彼の言葉に、三澄は回りくどく、でも彼女らしい言葉で愛を告げる。

「……わたしは十七歳だし、そもそもまだ出会って二週間だし、正直呆れている」
(中略)
「でも――とてつもなく意外だけど、嫌な気はしていない。万里部くんの気持ちはわからなくない。わたしも、あなたが起こしにこなかったときは寂し気がした。ついでに言うと、今日の朝ご飯が手料理じゃないことはまだ許していないわ」
(中略)
「これで万里部くんの話の答えになってる?万里部くんとの時間はわたしも楽しい。これからあなたが隣にいてくれるHCLプロジェクトも、きっと楽しいだろうなって思ってる。……この答えで、今は満足してくれる?」

そして無事に結ばれた二人は光の出産を機に、未来の光を孤独から救うために、二階堂と共に自分達の事故を偽装する計画を進める。

そして万里部と三澄の子供である、光が生まれてくる所で物語を終える。

 

【感想】

ここからは良かった感じた所を感想としてまとめます。

 

『万里部に干渉しているのは誰?』

第二章で未来の三澄が自分と異なる未来の三澄からの干渉を疑うシーンはSFものとしてワクワクした。
三澄の天才性を見てるとマブラヴオルタの夕呼先生を思い出すなあ…

 

『掃除機とは?』

第三章で万里部が三澄の部屋の掃除を始めるとき。
万里部が三澄に”掃除機はあるか”と尋ねた時のやり取りめちゃくちゃ好き。

「念の為聞くんだが、掃除機ってあるか」
「あるわけないじゃない。なにに使うのよあんなもの」
「掃除に決まっているだろうが。掃除機だぞ」
「ないわよ」

三澄に対して、常識が一切通じない所が彼女らしさに溢れて面白いw
掃除機に対して何に使う?って聞くところが本当にすき(笑)

 

『お茶目な一石教授』

第五章で一石教授がプログラミングし始めるシーン。

一石教授は物理学教授は紙とペンが似合うから…って言って、プログラムを触ることが出来るのを他の人に伏せているのがお茶目さんだなって感じたw
それと一石教授は三澄のプログラムをしれっと起動したりするし、七年後の三澄にさえそれを感知されていないところが本当に凄い人だな(三澄も尊敬するわけだ…

 

『万里部の父親へのコンプレックス』

第三章で明らかになった万里部の父親へのコンプレックスを、第六章の小説の文字数として少ないながらも、簡潔かつ説得力がある内容で解決に導いたのがクールで良かった。

そう感じた理由は以下の通り。

万里部の父親が浮気したりお金の問題で離婚したのを見ているから、結婚して子供を作る事に消極的だった。
だけど光という自分の子供が親である万里部と三澄を死という運命から救うために、両親が結ばれない様に過去に干渉していた事を知る。
自分の娘が自らの存在が消えてしまう覚悟を持って過去に干渉している、そんな決意の固さを万里部は感じて父親としての自覚が芽生えるところが良かった。

 

 

【さいごに】

ワサビ先生らしいSF小説をサクッと気軽に楽しめて良かったです!!!

量子矛盾を考慮した過去に干渉出来る具合が絶妙な所と、過去・今・未来の人物がそれぞれが互いに協力しながら問題を解決していく展開が良かった。

あとがきでもワサビ先生が書かれていたけど読後感スッキリだったので、皆が幸せに成れる世界が優しくて安心して読めました。
二階堂も悪役じゃなくて、善意なイケオジだったので一安心(秦兄がtinyを由来にしてる下りの会話すき)

それと物語を通して万里部は大きく変わったけど、一方親友の千嶋は30歳近くなっても大学生のときと変わらず百瀬さんにアプローチも出来ていない。
そんな二人のギャップが物語に深みを与えたと思います。

 

ワサビ先生の次なる作品を願って
「Good Luck」