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小説『告白撃』感想 ~男女の友情を超えた名状し難い関係性に悩みながら、人生を一歩進展される大人の恋愛物語~

告白撃 (角川書店単行本)

『告白撃』住野よる KADOKAWA

 

千鶴は結婚を機に学生時代からの男友達(響貴)との関係性に終止符を打つために、彼に告白されて振る事を計画する。
その計画を成就すべく、千鶴は既婚者であるもう一人の男友達(果凛)に助けを求める所から物語は始まる。

過去からズルズルと続く男女の友情を一見超えている様な名状し難い関係性に悩みながら、自身の想いに向き合い、人生を一歩進展される大人の恋愛物語。

 

【 ↓ 公式サイト様 ↓ 】

store.kadokawa.co.jp

 

以降、ネタバレ注意!!!

 

 

『旅館で響貴に告白されなかった事に安心する千鶴』

千鶴は響貴との関係性に区切りをつけるために告白されて、彼を振ろうとしているのだけど、響貴の事は友人としても大切な存在。

旅館の屋上近く二人きりで話している時に、響貴が自分の家庭環境(旅行などに出掛けることへの憧れ)故に、旅行に連れっていってくれる千鶴に感謝の念を述べる。

千鶴は響貴から告白されるという当初の目的からは外れたが、友愛を示してくれた彼の気持ちに対して、告白されて関係が崩れる事が先延ばしになったことで安心して眠る。
千鶴の後回しにしてしまう性格を示している様で良いと感じた(別に後回しにしてしまう事を責めている訳ではないよ)

読了後追記
上記には千鶴が後回しする性格が…って書いたけど、読み通してみて後回しじゃなくて、千鶴はあくまでも人との関係性を明確に定義したくないって思っていたのかなって感じた。
あえて明確に定義しないって事はあらゆる選択肢を諦めないって事で、それは千鶴自身が未来に幸せを掴むための生きる手段なのだと感じた。

特に千鶴が結婚式後に自信を振り返る以下のシーンが象徴的に感じた。

恋人のいなかった私が響貴の想いに気がついた居酒屋で、告白されたら付き合うことになるかもとよぎった。あの時からもしれない。
あった。無数に。
何一つ私は惜しいと思わない。
想像できる道が無数にあった。だからこそなんだ。
(中略)
ここから続く未来で、私達は必ず幸せにならなくちゃいけない。

 

『選択の先に待つ、苦い味』

響貴が千鶴への気持ちに素直になれるのが、取り返しのつかない事(結婚式)の後になるところが良かった。
何故かって言うと、住野よる先生が描かれる「選択が積み重ねで今の自分自身があって、それは覆しようのないものだから認めて生きていくしかない」っていう、君膵から変わらないメッセージが読んでいて伝わってきたから。

響貴は千鶴の結婚式という皆が幸せを願っている場所で、唯一自分だけが千鶴の悲しみを願っている事(千鶴が悲しみを受け入れられるのは自分だけという想い)に気付いて、そんな自分の存在に恥じてしまう。
千鶴の悲しみを背負う事だけが響貴の唯一の生きる目的で、結婚式の後、それが喪失してしまったから果凛や千鶴に合わせる顔を失くしてしまう。

でも響貴は1ヶ月考え抜き、千鶴抜きでの自分の目標を立てた後に千鶴との関係性に区切りをつけるために彼女に告白する。

正直に好きだった人に好きだと伝え、新しく前を向く響貴の姿が良かった。

 

 

『告白撃』

この物語は、響貴に千鶴へ告白させる過程を描いた告白「劇」。
あえてタイトルを「告白」ではなくて、「告白」としたのかを考えてみる。

この作品でいう「撃」は”触れる”っていう意味で用いられたのだと思う。

▶千鶴目線での「告白撃」

結婚式の挨拶で響貴へ贈った以下の言葉は、恋愛的な意味ではなく千鶴が響貴に想っている事を告げた告白。

『だからこそ改めて、私達二人にとってこれ以上にはない、かけがえのない今だったと証明するための未来を、これまでよりも深い関係性を共に作りあげていきたいと、心に誓いました。簡単な道だとは思っていません。どうか私達の歩む先が幸福に包まれるよう、まだまだ未熟な二人ではありますが、共に成長する姿を、今後とも見守ってくださいますと幸いです。何卒よろしくお願いします』

千鶴が響貴に想いを告げ、響貴の心に触れようとしたから「告白撃」って事なのかなって感じた。

このセリフは千鶴が暗記して話したもので、家族への想いは手紙に書いて読み上げているから、如何に彼女が響貴の事を大切(恋愛的じゃなく)しているかが伝わってきた。

 

▶響貴目線での「告白撃」

引越しを控えたベッドだけの生活感の無い空っぽな千鶴のアパートで、響貴は千鶴に告白する。

「千鶴のことが好きだった」
「うん、知ってた」
(中略)
「今の実は、人生で一番緊張した」
「そんなの私に使っちゃっていいの?」
「いいんだよ、いつか誰かに更新されるのだから」

響貴は自分自身の心(千鶴への恋)に触れて、自分の気持ちを自覚して千鶴に告白している。だから「告白撃」ってって事なのかな。

あと響貴の告白から千鶴への恋心にひと区切りつけたのかなって感じた。まあ響貴は1ヶ月の期間、死ぬほど悩んだんだろうな…

 

 

【登場人物別 感想】

ここからは登場人物別に感じた事を気軽に書きました。

 

『果凛』

最初は彼が主人公だと思って読んでいましたが、途中から彼は主人公じゃないだろうなって感じました(人によって違う印象を受けるかもしれませんが…)
なぜかと言うと、僕は彼が物語冒頭から結末時に変化していない所を感じたからです。

果凛は千鶴から響貴に告白されて振りたいと相談を受けて、大学時代の友人と協力して物語を展開させれるけど、主体的に動かしている感じもしなかった気がする…(決して彼の事が嫌いって訳ではないです)

あとしれっと結婚前に舞と浮気(ワンナイト)していたのを知った時に、「お前ぇ!」って心の中で叫びました(笑)
でもそんな果凛だからこそ、千鶴に対して響貴に告白させるために色んな提案(流れでキス迫ったりする事とか)が出来ていたのかなって思いました。

 

『千鶴』

千鶴が主人公な物語だと感じた。

彼女の内心を描いた描写が少し子供っぽいところから、30歳という大人が「子供時代→大学生→社会人」という様に連続して続いていて、急激に変化するものではないって改めて実感しました。

 

『響貴』

響貴が裏主人公って感じた。
物語冒頭から結末時に最も変わった人物だと思う。

千鶴と響貴との関係性を他人視点で見ると特別なものに見えるが、頑なに千鶴とは友人だと言い張り、その様に行動している彼の姿を見ていてカッコ良かったけど、胸が痛かった。
響貴が千鶴にキスを迫られたシーンで関係性を持ったり、千鶴の誕生日デートで何か違う行動を起こしていたなら、違う結末があったのかって空想すると「響貴ぃ…お前って奴は…」って心の中でずっと思ってました、、、

まあ最後に彼が前に向いて違う人生を歩み始めているのが描かれたので、千鶴じゃない人向き合って幸せになって欲しいな…

 

 

【最後に】

ここからは思ったことを雑多に書いていくよ。

 

読み切ってまず感じたのはスッキリした感覚じゃなくて、もやっとした感覚だった(別に悪い気分ではない)

大人の恋愛モノって事で、学生恋愛を描くた”色々とあったけど無事〇×△が付き合いました、幸せ一杯のハッピーエンド”っていう結末では無くて、千鶴と響貴の道は別れ、それぞれ人生が続いていくって感じの終わり方。
響貴のように失恋したとしても仕事してお金稼いで生きていかないといけないし、
千鶴のように結婚して引っ越すなら過去の哀愁を抱えながらもパートナーと向き合って生きていかないといけない。
誰かに想い、想われながら生きていくって大変な事が多いけど、尊いものだなって感じた。

 

あと個人的に好きポイントとして、、、
登場人物が自身を取り巻く環境が変わったからこそ、既存の関係性の大切さに気付く物語が好きだなって改めて感じた。

他の作品を例に挙げると、

『冷たくて 柔らか』

30代の主人公(女性)が学生時代以来に会った親友が結婚して変わっていて、当時の学生時代の気持ちを思い起こして、ずっと抱えていた大切だった気持ちに気付く百合物語。

 

『この恋を星には願わない』

幼い頃からずっと仲良しだった二人の女の子。大学生になり片方が男の子と付き合い始めることで、互いが一番だった二人の関係性が変化していく物語。

この二つの作品は個人的オススメなので是非。

 

 

↓↓ 住野よる作品 感想リンク ↓↓

una-008.hatenablog.com

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